こんにちは!キャスレー社員のS.E.です。
皆さんはインドと聞くとどのようなことを想像されますでしょうか?
世界最大の人口を持つ国、ターバンの国、タージマハルがある国、紅茶やスパイスの国、IT大国、世界最大のスラム街がある国、ハリウッドを凌ぐ勢いで成長するボリウッド(映画)の国。。。なにか歴史や文化とテクノロジーが入り混じったような、不思議な想像をされることと思います。
本日はそんな不思議の国、インドで当社が取り組む「インド国アグリテック分野における農村の社会課題解決のためのドローン画像を活用した農産物の品質定量化+P2P通信型ブロックチェーンを中核とするデジタルエコシステムに係る実証」についての最新事例をお伝えいたします。
目次
- インドについて
- プロジェクトの概要
- JICS事業の社会的意義
- 実際の現地の様子(ドローン飛行)
- ドローン飛行シミュレーター、VR空間について
- おいしさの見える化について
- ECサイトについて
- 当社が誇る最先端技術について
- さいごに
1.インドについて
インドの人口は現在14.3億人といわれ、中国を抜いて世界最大の人口を擁する国となっています。
その国土は日本の8.7倍あり、29の州、22の公用語をもつ他民族・連邦国家です。紀元前2600年ごろから栄えたインダス文明を祖として極めて古くから文化が花開き、現代に至るまでカースト制度が根付く一方、近年は目を見張る経済成長を遂げ、GDPはなんと日本の4位の次、5位のポジションにあります。
そんな驚きの国インドですが、実は人口の30%~40%が菜食主義と言われており、人口の約60%が農業および関連産業に従事する世界最大級の農業国でもあります。
インドでは伝統的に農家の立場が弱く、低所得に甘んじている状況があり、インド政府はこの状況を改善すべく様々な農業従事者の所得向上や産業振興策を行っています。
そのなかでも着目すべきは、Sub-Mission on Agricultural Mechanization (SMAM) と呼ばれる政策で、農業ドローンの利用、購入に補助金が充てられるなどの振興を図っている点が挙げられます ("Kisan Drone"と呼ばれています)。
当社は、以前からアグリテックの国内大手であるマクタアメニティ株式会社&ドローンEMS国内大手であるVFR株式会社とインド市場でのビジネスチャンスを窺ってきましたが、一般財団法人日本国際協力システムが公募した「新興国DX等 新規事業創造推進支援事業費補助金(インド太平洋地域ビジネス共創促進事業費)」の採択を受け、ドローンを起点にした農産物の品質定量化ビジネス実証プロジェクトに取り組んでいます。
2.プロジェクトの概要
プロジェクトの目的は ”日本の最先端技術を使ってインドの農業従事者の所得水準を上げること" で、VFR株式会社のもつドローン技術とキャスレーがもつweb3.0 / 画像解析の技術を融合させ、マクタアメニティの農産物の品質定量化によってこれを実現することにあります。
分野的にはいわゆるリモートセンシングの領域にあたり、以下のような手順が機能するか?ビジネス的に成り立つかの実証を行います。
①ドローンを飛行させカメラで圃場(畑)を撮影する
②撮影した圃場データを画像解析し、以下の用途に活用する
1.デジタルツインシミュレーター:リアル画像を点群データ化→3次元モデリング→VR空間生成(デジタルツイン化)→フライトシミュレーター生成
2.農産物の品質定量化:圃場の画像からAIを使って対象農産物を特定し、分光技術によっておいしさ(品質)を定量化(=「おいしさの見える化」)
3.営農支援:品質情報から農産物の生育や種付け・施肥・防除などのレコメンド
4.農産物の販売支援:市場から農産物の需要情報(種類と価格・取引量など)を取得し、農家が自ら「おいしさの見える化」された農産物の価格や数量を決めて直接販売(ダイナミックプライシング)
5.これらをデバイス間のP2P (Peer to Peer) 通信で結び、ネットワークがない環境でもデータのやり取りを行う
ドローンとweb3.0の技術を組み合わせたこのリモートセンシングは、世界でも類を見ない最先端のプロジェクトです。
3.JICS事業の社会的意義
背景:インドは農業大国と呼ばれ、人口の約6割が農業に従事しているとされています。一方で、農家の収入は低く、貧困に苦しんでいる人々が多くいるのが現状です。その原因として、組織・技術・制度など様々なものが示唆される中、私たちはサプライチェーンの課題に注目しています。
特に、インドの農業分野の特徴として、野菜等を市場に卸す際に州政府管轄の卸売市場である「マンディ」で通商許可を持つ仲買人による農産物の競りがあげられます。
この仲買人は競争がないために取引を支配しており、農産物を持ち寄った農家は提示された価格を受け入れるしかないという不当な扱いを受けてきました。
さらに、収穫した農産物が消費者のもとに届くまでには複数の仲買人の手を渡ります。また仲買人は農家と販売先の双方から二重の手数料を受け取るため、農家にとって無駄な仲介コストが発生し、最終小売価格の3割前後にまで収入が圧縮されているとも指摘されています。
(ニッセイ基礎研究所https://l.pg1x.com/85bkmaeQUdmRECUj8 )
これらのサプライチェーンの中間搾取の構造が、農家の貧困の一因となっています。
この仲介コストの課題をテクノロジーで解決し、品質の高い農産物が適正な価格で取引されるように支援することで、農家や農業支援者の貧困を解消し、社会課題の解決に貢献します。
加えて、当社の技術を活かし、ドローンから取得したデータをDXの起点とし、貧困の解消だけではなく農産物の生産~販売、ひいては教育まで農家のバリューチェーン全体を支援するアプリ・サービスを提供することを目的としています。
4.実際の現地の様子(ドローン飛行)
①ドローンを飛行させカメラで圃場(畑)を撮影する
ドローン飛行は、アッサム州に拠点を構えるネクター社にご協力いただきました。
アッサムティーなどの紅茶で有名な、あのアッサム地方を訪問しました。
ネットワーク環境がない農村地域で実験を行うため、現場で使用する地図データなどを入念に準備します。
実証実験は、アッサム州の市街地から南下したメガラヤ州と呼ばれる都市の山間部で実施しました。
ネクター社でデータを準備した後、車で片道3時間ほどかけてメガラヤ州山間部のWarmawsaw(ワーモーソー)、Nongdom Mawpliang(ノングダム・マウプリアン)と呼ばれる実証実験エリアに向かいました。
10月半ばでしたがインドは気温が高く、日中は30℃を優に超えていました。
ようやく準備が整い、ドローンを飛行させます。
インドの現地農家からの協力を得て、ドローンを飛行させ空中から農地を撮影しました。
実証実験エリアで実っているマンダリンや植物が確認できます。
5.ドローン飛行シミュレーター、VR空間について
②撮影した圃場データを画像解析し、以下の用途に活用する
1.デジタルツインシミュレーター:
ドローンの撮影/飛行データを活用し、フォトグラメトリー技術を活用してリアルタイムでデジタルツインによるVR空間を生成しました。
この空間内でドローン飛行シミュレーターを操縦することが可能です。
ドローンのシミュレーターを農業分野でのパイロット教育訓練に活用することで、墜落リスクのある高額なドローンを使用せずともデジタルツイン空間で高い精度の飛行技術を学ぶことができ、農村地域でのパイロットの育成にも寄与します。
このVR空間は、Pix4Dを用いて、92枚の縦横の画像データを組み合わせて生成されています。そのデータをunrealエンジンに取り入れ、シミュレーターを作成しました。
実際のドローンの操縦に近い操作をコントローラー上でも再現しています。
シミュレーターの実際の操作画面はこちらです。
VR空間の動画はこちらです。
6.おいしさの見える化について
②撮影した圃場データを画像解析し、以下の用途に活用する
2.農産物の品質定量化
空撮データから画像認識AIで特定の果物(ここではマンダリン)を識別します。マンダリンのRGB値をAIが検出し、赤枠でハイライトします。
取得した画像データをマクタアメニティ株式会社のおいしさの見える化技術の分析に用いました。
タブレット、スマホ等にダウンロードした「おいしさの見える化」アプリを起動し、対象物を撮影します。ピント、ホワイトバランスを微調整し、実際の色と合うように調整を行います。
解析が完了すると、甘味、酸味、旨味、苦味、塩味それぞれの値で定量化された結果がグラフで可視化されます。
従来の農産物の品質調査では破壊検査が一般的でしたが、この「おいしさの見える化」技術は、非破壊で画像データから解析できる点に革新性があります。
7.ECサイトについて
当社が作成したECサイト上に自分の畑で収穫された果物・野菜等の画像をアップロードすると、その画像データが解析されます。
ECサイト上においしさの見える化機能が実装されており、果物・野菜等の品質を数値で可視化できます。
インドでは、中央卸売市場で果物や野菜の取引価格が公開されています。
この情報をリアルタイムで取得し、自分の農産物と中央卸売市場での価格を比較することで、
適正価格かどうかを判断できるダイレクトプライシング機能が特徴です。
インドでは、仲介業者が法外なマージを搾取することが農家の貧困の原因となるなど、深刻な社会課題として捉えられていました。
当社のECサイトを利用して農家が適正な価格で取引できるようになることで、このような構造を変革し、農家の貧困の解決を目指します。
この一連の検証結果を踏まえ、ドローン飛行に協力いただいたネクター社と今後のビジネスの可能性について議論しました。
8.当社が誇る最先端技術について
実は、この仕組みのバックグラウンドには、当社のweb3.0技術を活用し構築されたハイパー・セキュア・ネットワーク*、ハイパー・セキュア・ストレージ*上の秘密分散データストレージ「furehako」が活用されています。
furehakoに保存後、インターネット環境がない状態で各デバイスにP2P・M2M*により連携させることによって、地形データを含む秘密情報を安全かつ大容量に保存する用途に役立ちます。
9.さいごに
農業・IT大国であるインドで実証実験を行ったことで、私たちの取り組みの実現可能性が示唆されました。今後も、実証実験を複数回実施し、サービス・アプリケーションの性能を高め、農家の貧困の解消に向けてテクノロジーを組み合わせた最先端のソリューションで課題を解決していきます。
* 「おいしさの見える化」技術は、マクタアメニティ株式会社が経済産業省の認定事業として開発した特許取得済みの技術です。
* ハイパー・セキュア・ネットワークとは、従来の web2.0 型を前提としたアーキテクチャではなく、web3.0型で実行されるネットワーク技術・方式のことです。その構成要素は、ソフトウェアによる暗号化、秘密鍵、生体認証、閉域化等と、ハードウェアによるHW Wallet、専用制御ルーター等の組み合わせにより、web3.0 でネットワークを実現することを意味します。
* ハイパー・セキュア・ストレージとは、1と同様に、従来の web2.0 型を前提としたアーキテクチャではなく、web3.0型で実行されるデータ連携・保管のための技術・方式のことです。その構成要素は、ソフトウェアによるP2P/M2M化、断片化、暗号化、分散化、秘密鍵および復号化、非同期化等による機密化、非検閲化、ハッシュ、ブロックチェーンによる真実性保証とトラッキング等と、ハードウェアによるHWWallet、専用NAS等の組み合わせにより、web3.0でデータ連携を実現することを意味します。
なお、ハイパー・セキュア・ネットワークおよびハイパー・セキュア・ストレージは、当社が2023年9月に開催されたECONOSEC(経済安全保障対策会議・展示会)で提唱した、全く新しいセキュリティの概念です。両技術の組み合わせにより、管理された特定のハードウェアのみでアプリケーションを実行するなど、ハイパー・セキュアなアプリケーションを運用することが可能となります。
* P2P:Peer to Peerとは、複数のコンピューター間で通信を行う際のアーキテクチャのひとつで、対等の者(Peer、ピア)同士が通信をすることを特徴とする通信方式、通信モデル、あるいは通信技術の一分野を指します。(Wikipediaより)
M2M:Machine to Machineとは、コンピュータネットワークに繋がれた機械同士が人間を介在せずに相互に情報交換し、自動的に最適な制御が行われるシステムを指します。(Wikipediaより)